映画 『Lock Stock And Two Smoking Barrels』でCockney Rhyming Slang

lock_stock_and_two_smoking_barrels 「スマートフォン」が「スマホ」のように短縮されるのが日本語の俗語。

 それに対して、Cockney Rhyming Slang (コックニー・ライミング・スラング:東ロンドンの庶民が話す押韻語)はその逆。何故か一旦長くして、次に後半部分を省略してしまいます。

 例えば「tea (紅茶)」は、Cockney Rhyming Slangで、

   Rosy Lee ← tea (紅茶)

 「Lee」と「tea」で韻を踏んでいます。ところが、この「Lee」を省略して「Rosy」だけで使われることが多いそうです。

   Rosy ← Rosy Lee ← tea

   紅茶はいかがですか?
   Would you like a cup of Rosy.
   
 「髪の毛(hair)」は「Bonney Fair」。これも、後半が省略されて、「Bonney」だけで使われるそうです。

   Bonney ← Bonney Fair ← hair

   髪を切りに行かなくては
   I need to get my Bonney cut.

 韻を踏んでいるのであれば意味を推測すこともできます。ところが、肝心の押韻部分が削除されてしまうと、もうお手上げです。

 もちろん、「Rosy」などは、一般のイギリスの人々にも浸透して、日常会話の中で使用されているようです。しかし、もし「telly」(テレビ)から「Liza Minneli」を経て「Liza」となった過程を知らなければ、「Liza」がテレビであることに気づくのは困難。限られた人のみが意思疎通ができる言葉となります。

telly liza minnelli

Telly が Lizaに?

 元々Cockney Rhyming Slangは、犯罪組織が使用していた言葉とのこと。彼らの会話が盗み聞きされても、その内容は外部に漏洩しないように暗号として使われていたとも言われています。

 イギリス映画『Lock Stock And Two Smoking Barrels』(ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ)に登場する次のシーンは、まさにそんな実例を知るにはぴったり。Cockney Rhyming Slangの部分には、なんと英語の字幕が表示されています。口にすることさえためらってしまうようなロリーの非情な行動。限られた人間だけが理解できるスラングで語られる秘密めいた会話が、ロリーに対する恐怖心をさらに強いものにしています。

Tom:
Rory Breaker.
ローリーブレイカーだ

Barfly Jack:
Yeah, I know Rory.
ローリー 知ってるぜ

He’s not to be underestimated.
あいつをナメちゃいけねえ

He’s a funny-looking fucker, I know.
見た目は笑わせるがな

You’ve got to look past the hair and the cute cuddly thing.
あのアフロと童顔は見せ掛けだけだ

It’s a deceptive facade.
本当はとんでもない奴だぞ

A few nights ago, Rory’s Roger Iron busted.
[Rory's TV has busted]
何日か前、ローリーのロジャーアイロンがぶっ壊れた

He’s gone down the Battle Cruiser to watch the end of a football.
そこであの野郎はサッカーをいるための、バトルクルーザーに繰り出し

No one’s watching the Custard, so he switches the channel over.
[no-one's watching the telly]
だれもカスタードを見ちゃいねえから、チャンネルを変えたが

A fat geezer’s North opens.
[a fat chap opens his mouth]
ふとっちょがノースをおっぴらいた

He wanders up and turns the Liza over.
[he wanders up and turns the channel over]
そいつは立ち上がってライザーを戻してこうほざいた

“Now F*ck off and watch it somewhere else.”
[Please remove yourself from this bar]
よそで見ねえと、ドタマかち割るぞ

Rory knows the claret is imminent,
[Rory knows blood could be split]
ロリーはプッツンぶちぎれたが、

but he doesn’t want to miss the game’s end.
試合を見逃したくも無かった

So Calm as a coma, picks up the fire extinguisher,
そこで奴はだまって消火器を担ぎ上げると

walks straight past the Jam Rolls
[he walks straight past the arsholes]
ケチを付けたジャムロールどもの後ろを通り抜けて

who were ready for action and plonks it outside the entrance.
消火器を店の外に置いた

He then orders an Aristotle of the most ping-pong tiddly in the nuclear sub
[He then orders a bottle of the strongest drink in the pub]
そして、ニュークリアサブで一番ピンポンディードリーなアリストトロスを注文して

and switches back to his footer.
チャンネルをサッカーにあわせた

“That’s f*cking it,” says the geezer.
["I've had enough"]
ぶち殺してやると 例のふとっちょ

“That’s f*cking what?” says Rory.
["enough of what"]
「上等じゃねえか」、とローリー

He gobs out a mouthful of booze, covering Fatty.
そして口に含んだ酒を相手に吹きかけ

He flicks a flaming match into his Bird’s nest
[He flicks a flaming match in his chest]
マッチでそいつのバーズネストに火を付けると

and the geezer’s lit up like a leaking gas pipe.
ふとちょは、ガス漏れのガス管みてえに燃え上がった

Rory, unfazed, turns back to his game.
だがロリーはゆっくりと試合観戦に戻ったのさ

His team’s won, too. Four nil.
応援するチームも勝ったとさ

(*)
英語字幕/吹き替え日本語
DVD『Lock Stock And Two Smoking Barrels』 より)

会話のなかで使用されているCockney Rhyming Slang 
(*)韻を踏まない通常のスラングも含む

Roger

= Roger Mellie = telly (テレビ)
Iron = Iron rusted = busted
Battle Cruiser = Boozer = Pub (パブ)(*)
Custard = Custard and Jelly = Telly (テレビ)
Geezer = a guy (男性)(*)
North = North and South = mouth (口)
Liza = Liza Minnelli = Telly (テレビ) 
Claret = blood (血)
Jam Rolls = ass hole (ばか)
Aristotle = bottle (ボトル)
Ping-pong = strong (強い)
Tiddly = Tiddly Wink = drink
Nuclear sub = pub (パブ)
Bird’s nest = Chest (胸)

 冒頭の説明と同じ例が、この会話の中でも登場しています。

 例えば、「telly」(テレビ)は、韻を踏む「Roger Mellie」(テレビキャラクターの人名、ロジャー・ミリー)や、「Custard and Jelly」(カスタードとゼリー)、「Liza Minnelli」(歌手のライザ・ミネリー)に言葉に置き換えられた後に、後半部分が省略されて、「Roger」、「Custard」そして「Minneli」だけに。

 Mouth(口)も「North and South」(北と南)で、韻を踏んだ後、「South」が省略されて「North」(北)だけになっています。

 同映画の監督Guy Ritchieは、Mockney(モックニー。偽者のコックニー。実際はコックニーではないが、コックニーのような話をする人)と呼ばれているとのこと。(御自身は、「準男爵の爵位を持つマイケル・レイトンの継息子であり、イングランド王エドワード1世の末裔」とのこと。wikipediaより)

 次から次へと新しいライミング・スラングを生み出し、それを楽しむ語彙的センスと機転、そして都会での厳しい生活を生き抜くコックニーの人々のタフさ。そんな文化に対する憧憬と尊敬の念が、Guy Ritchie監督の映画を通して人々に伝わっているのかもしれません。

(*)参考リンク
Cockney Rhyming Slang – London Famous Secret Language 
Urban Dictionary