その十二: 只ほど高いもの

さて、この間お話した絵とガソリンの値段を大きさや量を基準で考える人と同じように私共の英会話の入会のお問い合わせをいただく方の中で、値段だけ聞いて高い安いを言う人がいらっしゃいます。

スーパーに並んだ商品のように知っているものならそれもわかりますが、英語を習うというその内容もまだ聞かないうちに何を基準に高い安いを決めるのでしょうか。まったく私には不可解です。英会話を習うのも、洗剤を買うのと同じ様に考えているのでしょうか。

みなさん英会話を習う目的もレベルもばらばらですし、教え方も一人一人みな違います。それを一律の料金で教えている私共にも自己矛盾がありますが、せめて値段だけ聞いて高いか安いか決めてしまうのはちょっと待ってもらいたいと思うのです。せめて説明くらいは聞いて、その上で高いと思うのならそれはそれでしょうがありませんが。

日本には昔から「只ほど高いものはない」という警句があります。
安いものを探そうと「ただ」に行き着くと、そこには落とし穴があるわけです。(それもうまくかわせればよいですが)

 Nothing costs so much as what you get free.

とでもいったところでしょうか。

私は若い頃親父から、「今時只で動くのは空の雲と地震だけだ」等と言われた物です。今は価格破壊、激安となんでも中国、東南アジアからの輸入品で最安価格が決まってしまいまともな日本製にはお目にかかれないご時世になってしまいました。100円ショップは確かに安くて助かりますが、もう少し品質の良くて長持ちするものをもう少し高くてもいいから買いたいなどと思っても、もう日本には作っているところがないなどということもあります。

製造業はどんどん海外に生産拠点を移し、技術も海外へ輸出され国内には製造職人の技術を引き継ぐことができない業種も出てきています。激安、価格破壊の弊害による国内製造業の疲弊がもたらした結果です。本当に安くさえあればそれでよいのか、安さが一番大切なのか今が考えるときではないでしょうか。

少し壊れただけの家電製品も、国内では修理代が高いので修理をあきらめゴミとなりまた新製品を買うことになります。この廃家電ゴミを大量にもらいうけ東南アジアでは修理して売って大儲けしている人の話もききました。売れる新製品の開発には多くの技術者が注ぎ込まれますが、修理の需要がなければ修理する技術者はやがていなくなってしまうでしょう。また壊れたものを修理しようと頼んでも最近は6年もたつと修理用の部品もなくなっています。
これでは直せるはずもありません。そのため耐久性も、6年経ったら壊れていいように設計されているのではないかと疑っています。こんなことでいいのでしょうか。

もう20年ほど前になります。外国製の圧力鍋を使っていましたが、パッキンが痛んで圧力がかからなくなりました。そこで日本の百貨店に聞きましたところ、扱っていないというので、外国のそのメーカーに手紙を書いて10ドルくらいのパッキン代になりそうな額を送りました。しばらくして手紙と一緒に新品の鍋が届いたのでびっくりしました。手紙にはこう書かれていました。

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「私どもの製品を何十年も使ってくださりありがたく思います。
残念ながらその製品は生産中止になってしまったので新しいパッキンを送ることができません。しかしながらせっかく長く愛用していただいうえお手紙をいただきましたので社長に見せたところたいへん感激し当社の広告にあなたの手紙を使わせていただくことにいたしました。つきましては、いただきました金額は新製品の圧力鍋の代金にはたりませんが永く使っていただいたことの御礼と広告に使わせていただいた御礼として、ここに新製品の圧力鍋を送らせていただきます。これからも末永くご愛用ください。」
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というようなことが書いてありました。新品の鍋が届いたのはありがたかったですが、それは以前よりも厚さが薄くなりなんとなく軽く使いやすさはあっても頑丈そうには見えませんでした。鍋などモデルチェンジなどしなくてもよさそうなものを変えるところがアメリカ的ですね。台所用品はアメリカではテレビショッピ
ングでもいつも力が入った新製品が出ていますから、新し物好きの国民に売るには同じままでは売れないのでしょう。

あるとき日本に来たイギリス人に古い石油ストーブを持ってきているので、「なぜそんな古いものわざわざ持ってきたのか、日本にいくらでも安く売っているの」にと聞いたことがあります。それは有名な百貨店で扱っている多少高いが頑丈な石油ストーブで実に何年も故障なく使っているそうです。そして、それの替えパーツは子供のころから何十年も扱っているそうです。それを処分して日本に引っ越したとして安い新しいストーブを買ってもイギリスに戻ったときに替えのパーツ(主に芯ですが)が手に入らないため、故障したときにまた買い直さなくてはいけなくて無駄になるといわれました。アメリカ人と違いイギリス人は、その点たいへん物を大事に使います。ストーブひとつもそこまで考えて買うか買わないか決めることに感心しました。また、何年でも消耗品も必ず扱っていてくれるので安心して買えるという百貨店にも感心しました。(注:地震のない国の耐震自動消化装置のないストーブは、今は日本では使えません)話は少し変わりますが、スーパーや大型量販店の進出で商店街はどこも大変な思いをしています。

先日、ちょっと欲しい物があり安いというので車で大型量販店に出かけてみました。みなさんの方がよくご存知のように、その品数は凄いものであまりの広さにどこに買いたい物が置いてあるのか探すのが本当に大変でした。おまけに文具と食品は3階と地下に売り場が分かれているのでエレベーターを待ち行ったり来たり、また嵩張る荷物を積みに車に戻ろうとしたら、駐車場が広くて柱に番号が書いてなかったので何処に停めたか自分でわからなくなってしまい(このあたりかなりボケているのかもしれません)右
往左往してやっとの思いで見つけました。帰りの日曜夕方の渋滞もひどいもので、これでは付近の人は本当に迷惑だなと思いました。こんなことなら地元の駅前の商店街に散歩がてら買いに行った方が値段は少し高いにしろずっと楽で時間の無駄がないと思いました。おまけに重い物は顔なじみの店は届けてくれますから。

昔は酒屋、米屋は御用聞きといってお得意さんの家を回り注文を取って届けてくれ、代金はクレジットカードなどなくとも月末払いというのが多かったものです。

そうでなくとも商店街の魚屋さんや八百屋さん、肉屋さんなど毎日買う食品に関しては顔を覚えているので、好きなものなど覚えていてくれ通りかかると「何々のいいのが今日はあるよ」などと声をかけてくれたものです。ガソリンを使って車を走らせ休日の時間をつぶして買い物をして疲れる。クレジットカードの使い過ぎでサラ金からお金を借りて払い、返せなくなり自己破産する。
いったいこれが便利でいい時代なのでしょうか。ある大手サラ金会社は貸し過ぎた顧客の回収不能金が膨らみ減益となり希望退職者を募ったそうです。そのほかにもトップが盗聴事件を起こした会社もありました。ノーローンと言って「1週間なら金利タダ」と宣伝しているところもあります。ほんとにタダほど高いものはありません。

ご老人を集め話を聞きにいくと、毎日卵や洗剤をただでくれると言う商法もあります。口コミでどんどん人が集まり、やがて1週間も通うと老人の愚痴などなんでも話を聞いてくれ顔なじみになって友達になったような気がします。
それで最後にその1週間のうちにもらった商品の金額をはるかに超える利益を上乗せした高級な羽毛団セットや磁気治療器を、市場よりもずっと高額で買う羽目になってしまいます。

また、これだけパソコンが普及してインターネットの検索でものすごく膨大なデータの中からなんでも調べられるような気がしていますが、検索では調べたい語句に一致するものしか出てきません。図書館に行ってたまたま調べたいと思った本の棚の片隅においてある別の本を何気なく手にとってみたら之が運命の出会い、その本に感動して人生が変わった、なんていうことはない代わりにネットサーフィンだとか出会い系サイトだので犯罪に出会ったり、チャンスは多くても、リスクもまたやたら大きな社会になっているのにそれに気づかず生活している人が多すぎます。図書館のただは税金でまかなわれているので、本当は「ただ」ではありません。でもたいていの他の「ただ」は、その「ただ」を作り出すための利益の確保法が他にあって見えないだけなのです。だからわけのわからない「ただ」は危ないのです。

戦後日本がアメリカ第一主義で学んだのが、アメリカのプラグマティズム(実用主義)ですが、簡単に言えば之は経済的な合理主義でその弊害が現れて来て近年物質文明の反省が叫ばれているわけです。

私は若い時はドイツの理想哲学者「カント」に心酔したものですが、年を取るにつれて東洋の思想家の言葉に強く惹かれるようになりました。孔子、孟子の言葉には実に味わい深いものがあります。

たとえ毛沢東に禁じられていても孔子の言葉には見るべきものが沢山あるので、中国の人も文革中でも密かに読んでいたのでしょう。便利な時代だからこそ便利でないものに真理を見出す価値があるのかもしれません。

 「仁者は憂えず、知者は惑わず、勇者は懼(おそ)れず。」

では、今年ははこの辺で。

秋からですが12回ほどお読みいただきありがとうございます。テレビドラマだとちょうど季節の番組の入れ替えで終わるところですね。年末は老体にはお休みを頂き、少しのんびりさせていただきます。また新年は2週目から少しのんびりペースで行こうと思いますのでよろしくお願いいたします。皆さんもよいお年をお迎えください。


株式会社イーティーシー 
代表取締役会長 福本光一郎

2012-03-05 12:08:02